夏が来れば想い出す。


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Getz Au Go Go

「水芭蕉の花」ではありませんよ。

今月のサックスアーチストは誰にしようって、
じつは、前から決めておりました。

スタン・ゲッツであります。

「安易な管理人だな、ボサノバだからだろ?」

それだけではありません。だったらジャズ・サンバやゲッツ・ジルベルトを紹介するでしょう。

このライブ版を持ってきたのには理由があります。

普通の女の子みたいに(実際そうだったらしいが)『春の如く』を歌うアストラッドの横で、
結構勝手に吹いているゲッツですが、この雰囲気が好きだ。

私は学生時代、丘サーファーみたいなカッコをして、クロスオーバーバンドをやっていた。

で、ボーカルに背の高いクラスメートの子を起用したのです。

片想いだったんですよ。この子に。

サークルのライブでこの『春の如く』を唄ってもらった。

ステージ栄えする彼女は当時デビュー3年目の阿川泰子さんより素敵に見えた。

この想い出を胸にしまって25年。

サーフィンの得意な湘南育ちの彼女は、見知らぬ海へと早すぎる帰らぬ旅に出たのでした。

同じ病と戦う人たちの助け合いサイトで、「なぜか死なない気がする」と気丈に語り、

最後までファンが多い様子だった、と後から知った。

今でも、『春の如く』の優しく綺麗な、しかしメジャーなのにどこか哀愁のあるメロディーを聴くと学生という『春』の時代を想い出します。

あれれ、感傷に浸っていたら、スタン・ゲッツが出てきませんね。

この微妙な存在感が「良い感じ」のアルバムなんですよ。

でも、『Here’s That Rainy Day』ではホントに夏の濡れ縁に

涙のような雨

が降っている。

テナーでこんなしっとり感が出せるんですね。

で、ゲッツの影が薄いので今日はもう一枚、90年代の遺産を。

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People Time

スタン・ゲッツはその死の3ヶ月前にケニー・バロン(p)とこの
ライブデュオアルバムを残しています。
これサックスを吹く方(いやいや音楽を愛する方)なら必ず聴いて頂きたいアルバムです。

ろうそくがもう芯だけになり、ゆらゆらと消え行く炎が燃え尽きる前、最後の一瞬激しく光を放つ。

この魂の叫びがあまねく聴く人の心を掴んで離さない、まさに「白鳥の歌」です。

1曲目のEast of The Sunの最初のテーマメロディーが出た瞬間、
「これから僕の人生の話をします」と聴こえる。
「ウッ」と涙腺が熱くなるはずです。

ジャズとはこれ、音楽とはこれ、いや人間とはこれ。

聴けば、我々は残りの人生こそ「正しく生きなければならぬ」と必ず決意させられる

命のアルバムです。